建設技術図鑑

免震・制震・耐震は、地震のどこを受け止めるのか

免震・制震・耐震は何が違うのか。揺れを伝えにくくする、吸収する、骨組みで耐えるという三つの考え方を、実例と発注時の確認点から解説します。

更新日
2026年7月11日
読了目安
12分
テーマ
建築構造・地震対策
耐震は骨組み、制震はダンパー、免震は基礎の装置で地震応答を抑える三方式の比較図仕様

同じ地震でも、建物の揺れ方は変えられるのか

地面が大きく揺れた時、建物は一つの方法でしか抵抗できないわけではありません。

骨組みを強くする。揺れを途中で吸収する。地面の揺れを建物へ伝えにくくする。設計者は目的に応じて手段を選びます。

免震、制震、耐震の違いは、どこで地震の力を受け止めるかにあります。

なぜ「倒れない」だけでは足りないのか

人命を守るには、まず構造体が大破や倒壊を避ける必要があります。しかし病院、庁舎、データセンターでは、地震後も機能を続ける要求が加わります。

棚、天井、配管、医療機器、エレベーターも揺れの影響を受けます。構造体が無事でも、使えなければ施設の役割を果たせません。

国土交通省は、災害対応に必要な施設や重要物を扱う施設で、免震の適用を検討すると示しています。

三つの方式は、揺れをどこで受けるのか

耐震・制震・免震は、地震に対する建物の基本的な考え方です。ここで一度だけ整理します。

耐震は、壁、柱、梁、筋かいなどの骨組みで地震力に耐える考え方です。建物は揺れますが、構造体の安全を確保します。

制震は、建物内部のダンパーなどが揺れのエネルギーを吸収します。建物の変形や繰り返しの揺れを抑える役目を持ちます。

免震は、基礎と上部建物の間に積層ゴムやダンパーなどを置き、地面の激しい揺れを伝えにくくします。上部建物の揺れを小さくする代わりに、免震層が動く余裕を確保します。

方式主な働く場所計画で見る点
耐震柱・梁・壁・筋かい骨組み、接合部、耐力壁、基礎
制震建物内部のダンパー等装置配置、変形、繰り返し応答
免震基礎と上部建物の間免震層の変位、周囲のクリアランス、維持管理

どの建物で方式の違いが見えるのか

国立西洋美術館本館の免震レトロフィット

国土交通省関東地方整備局は、ル・コルビュジエ設計の国立西洋美術館本館で免震レトロフィットを採用しました。文化的価値を守りながら耐震安全性を高めるためです。

既存建物を残しつつ基礎まわりへ手を入れる工事では、建物の外観だけでなく、展示や利用への影響も計画条件になります。

七尾市の免震建築物

国土交通省は、令和6年能登半島地震で七尾市内の免震建築物が大きな地震動を受けた後も、建物被害を抑え、機能継続に役立ったと報告しました。

免震は揺れをゼロにする技術ではありません。地盤の揺れ、建物の用途、装置の性能を前提に、被害低減を狙う仕組みです。

官庁施設の耐震・制震計画

国土交通省の建築構造設計基準は、重要度の高い施設で免震や制震を検討すると示します。高さ45m超、免震、時刻歴応答解析を行う制振建築では、地震応答の計測と記録も検討対象です。

ここでは装置だけが主役ではありません。地震後に何を続けるかが、方式の選択を決めます。

面白さは、地震の力を消さずに逃がす点にある

地震のエネルギーを建物から完全に消すことはできません。耐震は骨組みで受け、制震は熱などへ変えて吸収し、免震は揺れの周期を変えて上部へ届く力を抑えます。

同じ建物でも、低層か高層か、地盤がどうか、何を守るかで答えが変わります。方式名だけで優劣を決めない理由がここにあります。

地震後に使い続けるには何まで決めるのか

構造方式を決めた時点で、地震対策が終わるわけではありません。建物が揺れた後に、誰が何を点検し、どの状態なら使い続けるかを決めます。

免震建物では、免震層の変位を許す目地や配管の追従性を確認します。制震建物では、ダンパーの配置と点検のしやすさを考えます。

耐震補強では、壁やブレースを増やすことで、採光、動線、設備更新が変わることがあります。意匠、設備、構造の設計者が早く協議するほど、後の調整が減ります。

地震後の初動も資料に入れます。点検の担当、立入制限、設備の停止と復旧、利用者への連絡手段を平時から定めます。

用途ごとの復旧目標も数値や時間で示します。例えば、いつまでに診療や執務を再開するかで、必要な電源や設備の冗長性が変わります。

構造設計者だけに判断を任せません。施設管理者、設備担当、利用者が、止められない機能を先に共有します。

発注前に性能資料の何を読むか

確認項目質問の要点
性能目標人命保護、継続使用、早期復旧のどこまでを狙うか。
地盤条件地震動の想定と、液状化・地盤変形の評価をどう行うか。
構造計算書採用方式、地震波、層間変形、免震層変位の説明があるか。
非構造部材・設備天井、外装、配管、機器、家具の対策を別途確認したか。
維持管理装置の点検、地震後の確認、交換計画を誰が担うか。
改修時の施工営業・居住を続けるか、仮受けや仮設をどう計画するか。

カタログの「揺れを低減」という言葉だけでは判断できません。建物、地盤、用途に結び付けた計算と説明を求めます。

許可業種から候補をどう探すか

耐震、制震、免震は、建築設計と施工の総合力が要る仕事です。改修では既存建物を調べ、仮設と設備を含めて計画できる体制も確認します。

参考にした技術資料

よくある質問に答えます

免震なら家具も倒れませんか?

揺れを小さくする効果が期待できますが、家具固定や什器の安全対策は別に必要です。建物の性能と室内安全は分けて確認します。

制震と免震はどちらが上ですか?

上下関係ではありません。建物の用途、地盤、形状、求める機能継続、改修条件から構造設計者が選びます。

耐震改修ではどれを選べますか?

既存建物の耐震診断、基礎、敷地、設備条件で選択肢が変わります。補強、制震、免震レトロフィットを同じ条件で比較します。