建設技術図鑑

ビルは木で建てられる時代: 純木造高層ビル

木造でも高層・耐火のビルは建てられます。Port Plusを中心に、耐火、接合、揺れ、施工の仕組みと、木造化を発注する前の確認点を整理します。

更新日
2026年7月11日
読了目安
11分
テーマ
木造建築・耐火・脱炭素
11階建て純木造ビルの柱梁、耐火被覆、制振・免震、工場製作した木質部材を示す断面図

11階建てのビルを、柱も梁も木でつくった

木造と聞くと住宅を思い浮かべます。ところが横浜には、地上11階、高さ44mの純木造耐火建築物があります。大林組横浜研修所「Port Plus」です。

木で高く建てる難しさは、単に柱を太くすることではありません。火、地震、接合部、施工精度、雨への対応を同時に解く必要があります。

木は昔からの材料です。それを工場加工、解析、耐火技術、免震と組み合わせると、都市のビルにも使える材料へ姿を変えます。

なぜ都市のビルで、あえて木を使うのか

木材は、再生産される資源であり、建物に使われている間は炭素を固定します。一方で、都市の中高層建築には耐火、耐震、施工性、コスト、供給の安定性が求められます。

木造化は鉄骨やコンクリートを一律に置き換える話ではありません。躯体を軽くできる可能性、工場加工で現場作業を短くする可能性、内装に木を見せる空間価値を、用途と敷地条件に合わせて検討する方法です。

木造化で検討する価値

構造重量、木材の調達、工場加工、炭素固定、木質空間の質を計画へ入れられます。

先に解くべき課題

防耐火、接合、雨仕舞い、音、振動、法規、維持管理を初期から統合します。

純木造高層ビルは、どうやって火と揺れに耐えるのか

純木造高層ビルは、柱・梁・床・壁などの主要な地上構造部材を木材で構成する高層建築です。定義はここまでです。実現には、材料の強さだけでなく、燃え方と接合の変形を設計します。

木材の表面は火災で炭化します。その炭化層が内部への熱の進行を遅らせる性質を利用し、部材断面を残す燃えしろ設計や、石こうボードなどで守る耐火被覆を部位ごとに選びます。地震に対しては、柱梁接合部の剛性、耐力壁、制振・免震を建物全体で検討します。

  • LVL単板を繊維方向にそろえて積層した構造用木質材料です。強度のばらつきを抑えやすい特長があります。
  • 接合部木材同士の力を伝える場所です。金物を露出させず、耐火被覆の中へ納める設計もあります。
  • 耐火設計火災時に必要な時間、構造耐力と区画を保つための設計です。
  • 免震・制振地震の揺れを建物へ直接伝えにくくし、接合部や仕上げへの影響を抑える選択肢です。

木で高く建てる技術は、どこで確かめられたのか

Port Plus: 地上部の主要構造をすべて木にする

大林組は2022年、神奈川県横浜市中区にPort Plusを完成させました。地下1階・地上11階、高さ44mで、柱、梁、床、耐震壁、屋根の主要構造部をすべて木造とした日本初の高層純木造耐火建築物です。

同社は、LVLの柱梁をGIRとドリフトピンで接合する剛接合ユニットを開発しました。部材を工場でユニット化し、現場での組立効率と構造性能の両方を狙っています。軽い躯体により、杭なしの計画も可能になったと公表しています。

木造先導事業: 技術を建物単体で終わらせない

Port Plusは国土交通省のサステナブル建築物等先導事業とCLT活用建築物実証事業に採択されました。高層木造は、設計図だけで普及しません。耐火試験、部材供給、施工手順、性能評価を公開し、次の建物で再現できる形にすることが重要です。

公共建築の木造計画・設計基準

国土交通省は2024年、公共建築物の木造計画・設計基準を改定し、中層以上の木造化に対応する防耐火・混構造の設計手法を拡充しました。高層木造は特別な一棟の話ではなく、制度と実務の両方で選択肢を増やす段階に入っています。

面白さは、木の弱点を隠さずに設計条件へ変えるところにある

木は燃える、湿気で動く、部材ごとに性質が違う。そのままでは高層化の障害に見えます。高層木造では、それぞれを設計条件に読み替えます。燃え方は耐火時間へ、乾燥と加工精度は接合性能へ、軽さは基礎と施工計画へつながります。

木を使う建物は、木だけで完結しません。鉄、コンクリート、断熱、防水、設備が役割を分けて建物を支えます。木造か非木造かの二択ではなく、どこへ木を使い、何を他の材料に任せるかが設計の本題です。

特に都市部では、搬入経路と近隣条件が施工法を左右します。部材をどこまで工場で組み、何tの部材をいつ揚重するか。木造化の効果は、材料の種類だけでなく、加工から建方までの段取りに現れます。

発注前に何を確認すると、木造化の提案を比べられるか

確認項目見る理由質問例
構造の範囲「木造」の意味は建物ごとに異なるため。柱・梁・床・壁のどこまで木材か。
耐火計画用途、規模、部位で求める性能が変わるため。燃えしろと被覆をどの部位で使い分けるか。
接合部強度、変形、耐火、施工精度が集まるため。接合金物をどう保護し、検査するか。
雨と含水率建方中の濡れが品質に影響するため。養生、含水率管理、雨天時の工程はどうするか。
調達とLCA木材の樹種・産地・加工で計画が変わるため。供給体制と環境評価の前提は何か。

許可業種から候補をどう探すか

高層木造を総合的に進める候補は建築一式工事から探します。木質躯体の加工・建方は大工工事、接合金物や鋼製部材を扱う範囲では鋼構造物工事も確認します。

許可情報の次に、設計者、木材供給者、加工工場、耐火試験の根拠、施工管理者が早期から同じ計画を共有しているかを見てください。

参考にした技術資料

よくある質問

純木造高層ビルは、鉄を全く使わないのですか?

ここでいう純木造は、主要な構造部材を木材で構成する考え方です。接合金物、設備、基礎まで木材だけにする意味ではありません。

木造でも火災に耐えられますか?

用途・規模・法規に応じた耐火設計が必要です。大断面木材の燃えしろ設計や耐火被覆などを、部位ごとに検証します。

木造化は必ずCO2削減になりますか?

材料調達、運搬、施工、更新、解体までの条件で評価が変わります。木材を使う量だけでなく、LCAの前提を確認する必要があります。