財務・利益管理

売上はあるのに利益が残らないを防ぐ、工事台帳の見方

売上だけでは見えない現場別の採算を、実行予算、発生原価、未発注分、完成までの見込原価から確認する方法を整理します。

更新日
2026年7月27日
読了目安
約12分
対象
建設会社の経営者、工事責任者、経理・工務担当者
工事台帳と電卓で現場別の原価と利益を確認するイメージ

Key points

この記事の要点

工事の利益は、完成後に請求書を集めて初めて分かるものではありません。工事台帳へ当初予算、発生済みの原価、発注済み未請求額、完成までに必要な費用を同じ工事番号で集めれば、利益の減少を施工中に見つけられます。大切なのは、過去に使った金額だけでなく、完成時にいくらかかる見込みかを毎回更新することです。

  • 契約金額-完成時総原価見込で、現時点の着地利益を確認する
  • 請求書を待たず、発注済み未請求額と未発注の残工事を見込原価へ入れる
  • 工事利益と8週間先までの入出金を分けて確認する

現場で起きているのは、赤字より先に見えない資金不足

最近公開された建設業者や経営者の動画では、同じ問題が別の言葉で繰り返し語られています。工事は黒字でも入金前に材料費や外注費の支払が来る、売上規模が大きくても粗利益が薄ければ支払原資が残らない、人と材料を確保できる価格で受注しなければ工事を続けられない、という問題です。

動画で語られた現場の問題台帳で先に確認する数字
利益が出ても、現金化しなければ返済できない次回請求日、承認状況、入金予定日、支払予定日
小規模事業者ほど手元資金が重要になる8週間先までの週末残高と最大資金不足額
粗利益が薄いと、人件費や固定費を払う原資がない完成時利益見込、月間固定費、工期延長時の現場経費
人と材料を確保できる価格で受注する必要がある最新単価で積み直した残工事原価と受注時との差

動画の発言は各社の経験や見解であり、全企業へそのまま当てはまる統計ではありません。ただし、完成後の損益だけを見ていると対処が遅れる、という実務上の警告は共通しています。工事台帳は決算のための集計表ではなく、値上がり、工程遅延、未承認追加、入金遅れに気づくための早期警戒表として使います。

工事台帳は、完成前の着地を読むために使う

ここでいう工事台帳は、工事ごとの売上、原価、予算、請求、入金を追う社内の採算管理表です。建設業法上の施工体制台帳とは目的が異なります。

発生済み原価だけを見ると、まだ請求されていない外注費や、これから購入する材料が抜けます。そこで、次の式で完成時の着地を確認します。

完成時総原価見込 = 発生済み原価 + 発注済み未請求額 + 未発注分を含む残工事の見込原価

完成時利益見込 = 現在の契約金額 + 書面で合意した追加変更額 - 完成時総原価見込

見積提出中、口頭協議中、社内で請求したいと考えているだけの追加工事は、確定売上と同じ欄へ入れません。「未承認の追加候補」として別に管理します。

最初は9項目を工事番号でそろえる

項目確認する内容
契約金額当初契約と、合意済みの追加・減額を分ける
実行予算材料、労務、外注、機械、現場経費などの当初計画
発生済み原価請求書、出面、材料払出、機械使用など、すでに使った原価
発注残注文済みだが、まだ請求・計上されていない金額
残工事見込未発注分も含め、完成までに必要な数量と金額
完成時総原価見込発生済み原価、発注残、残工事見込の合計
完成時利益見込現在の契約金額から完成時総原価見込を引いた金額
請求・入金出来高請求、入金日、未収額。利益とは別の資金管理
差異理由と対応数量増、手戻り、単価上昇、工程遅延などと担当者・期限

項目を細かくしすぎると現場で更新されません。最初は会社で金額影響の大きい費目に絞り、工事名の表記揺れを避けるため共通の工事番号を使います。

利益300万円の予定が150万円へ下がる例

次は、税抜の契約金額を2,000万円とした仮定例です。実行予算は1,700万円で、着工時には300万円の工事利益を見込んでいました。

確認時点契約金額完成時総原価見込完成時利益見込利益率
着工時2,000万円1,700万円300万円15.0%
施工途中2,000万円1,850万円150万円7.5%

施工途中の1,850万円は、発生済み原価1,000万円と、発注済み未請求額350万円、残工事見込500万円の合計とします。請求書に表れている1,000万円だけを見れば余裕があるように見えますが、完成時の見込みでは利益が150万円減っています。

差異の内訳を、材料の数量増60万円、手戻り40万円、機械の延長30万円、現場管理の延長20万円と記録すれば、値引き交渉、工程の組み替え、追加変更協議など、次の行動を決められます。この例は管理方法を示す仮定であり、会社ごとの原価区分や消費税の扱いに合わせて設計します。

利益が消える現場には、更新の遅れがある

  • 日報の人工数が工事台帳へ入らず、自社労務費が少なく見える。
  • 注文書を出した外注費を、請求書が届くまで原価へ反映しない。
  • 設計変更や追加工事を、相手の承認前から売上へ含める。
  • 残工事を「予算残」と同額にして、最新の数量と単価で積み直さない。
  • 工期延長による現場管理費、機械、仮設、交通費の増加を見落とす。
  • 黒字の工事だけを確認し、赤字見込みの原因と対応期限を残さない。

予算との差額だけでは原因が分かりません。数量差、単価差、施工方法の変更、手戻り、工期差、未承認追加のどれに当たるかを一つ選び、金額と担当者を記録します。

断る基準と手元資金を、受注前に決める

建設会社の経営者からは、価格が合わない仕事を断る、値上がりを発注者へ説明する、固定費に耐えられる現金を残す、経営者一人ではなく社内で資金と受注を共有する、といった対応が語られています。特に採算が合わない単価を断った実例と、固定費に対して何か月分の現金があるかを見るという議論は、受注量だけを追わない判断につながります。

現場で出た解決の方向自社で決める基準台帳で見る場所
採算が合わない単価を受けない最低粗利益額・利益率、延長1日当たりの現場経費、値引きの承認者完成時利益見込、残工事見込、差異理由
値上がりを早く説明する見積有効期限、再見積の条件、価格変動を通知する担当者と期限見積時単価、最新単価、未承認変更額
工事が止まっても耐えられる現金を持つ固定費何か月分を持つか、繁閑差を含む最低残高8週間資金表、月間固定費、借入返済
経営者一人で抱えない現場・経理・経営が同じ表を見る曜日、悪化時の報告基準前回差、対応担当者、期限、未解決項目

「何%なら断る」「固定費何か月分を持つ」という正解は会社ごとに違います。だからこそ、案件が来てから感覚で決めず、借入枠、季節変動、取引条件、会社が負えるリスクを踏まえて先に基準を置きます。

現場・購買・経理を月1回つなぐ

  1. 現場責任者が出来高、残数量、追加変更、工程の遅れを更新する。
  2. 購買・工務が注文済み金額と未発注の残工事を確認する。
  3. 経理が請求書、労務費、材料、機械、現場経費を工事番号へ集計する。
  4. 工事責任者が完成時総原価見込を更新し、前月との差異理由を書く。
  5. 経営者が金額影響の大きい工事と、対応期限を確認する。

月末締めだけでは対応が間に合わない短期工事は、週次で残工事見込を更新します。全工事を同じ細かさで会議にかけず、利益率が社内基準を下回った工事、前回から利益が大きく減った工事、未承認追加がある工事を優先します。

利益が出ていても、入金前なら現金は増えない

工事利益と資金繰りは別です。材料代や外注費を先に支払い、出来高請求や完成金の入金が後になる工事では、利益見込みが黒字でも資金が不足します。

工事台帳には請求済み額、入金済み額、次回請求日も持たせます。ただし、入金額を売上や利益の代わりにはしません。採算会議では完成時利益見込を、資金繰り会議では入出金予定を確認します。

8週間資金表に入れる項目現場へ確認すること
入金予定請求できる出来高か、検査・承認は済んだか、請求書の締め日に間に合うか
材料・外注の支払注文済み未請求額、前払、締日、支払日、支払条件の変更
給与・法定福利費現場別の人工だけでなく、会社全体で実際に出ていく日と金額
固定費・返済車両、リース、家賃、保険、借入返済など、工事が止まっても出る金額
週末残高予定どおり入金されない場合に、何週目で不足するか

月末残高だけでは、月途中の支払ピークを見落とします。毎週末の残高を8週間先まで並べ、入金が1週間遅れた場合も試算します。不足が見えたら、請求を早められる出来高の確認、分割請求、支払条件、工程と発注時期を関係者と早めに協議します。金融機関への相談も、資金が尽きる直前ではなく見通しが立った段階で行います。

会計上の工事収益・原価の認識、未成工事支出金などの処理は、契約条件、進捗、採用する会計方針で異なります。管理用の工事台帳と決算数値をどうつなぐかは、税理士・公認会計士へ確認します。

Before deciding

実行前の注意

  • この記事の数値は管理方法を説明する仮定例です。
  • 工事収益・原価の計上、共通費の配賦、消費税、未成工事支出金などの会計・税務処理は、会社の会計方針と個別契約を踏まえ、税理士・公認会計士へ確認してください。

Checklist

実務で確認すること

  • すべての注文書、請求書、日報、材料払出を共通の工事番号へひも付ける
  • 契約額は当初、合意済み変更、未承認候補に分ける
  • 請求書未着の発注残を確認する
  • 残数量を最新単価で積み直す
  • 完成時利益見込の前月差と原因を記録する
  • 請求の承認状況と入金予定日を確認する
  • 8週間先まで週末残高を並べ、入金が1週間遅れた場合も試す

Primary sources

参考にした一次情報