Key points
この記事の要点
退職理由を本人の性格や相性だけで片付けると、同じ問題が次の採用でも繰り返されます。入社時の説明、配置、指示の出し方、労働時間、休暇、安全、技能習得を記録し、短い面談と定例会議で変化を追うことが出発点です。定着を保証する方法ではなく、離職につながり得る社内の課題を早く見つけるための運用です。
- 記録入社時の約束、配属、教育、勤怠、本人の困りごとを時系列で残す
- 教育閑散期を教育へ充て、質問先と遠隔支援の担当を先に決める
- 働き方現場の閉所日だけでなく、実際の休み・持ち帰り仕事・手取りの変化を見る
現場で実際に試されているのは、採用広告より入口と教育の整備
人手不足への対応は「若者を採用する」で終わりません。福岡の現場を取材したKBC NEWSの報道では、850人余りの学生が足場、工具、施工を体験し、現場では女性用の動線や設備を男性用と分けて整える様子が紹介されています。仕事を知らない人へ、実物を触る入口と働ける環境を先に見せています。
一方、建設会社の経営者が人材育成を語った動画では、未経験者の教育費も工事原価へ織り込まなければ続かない、閑散期に材料や仕事を覚える時間を取る、忙しい現場へ放り込まず遠隔でも質問できる担当を付ける、という実際の運用が語られています。本人も自社の育成体制はまだ十分ではないと認めた上での話であり、完成した成功談ではありません。この不完全さを含めた試行の方が、中小建設会社には参考になります。
| 現場で出た解決策 | 中小企業での始め方 | 確認する記録 |
|---|---|---|
| 仕事を体験できる入口を作る | 半日見学で一つの作業を体験し、危険・必要技能・一日の流れを説明する | 参加者の質問、応募前後の認識差 |
| 女性も使える設備と動線を整える | トイレ、更衣、休憩、保護具、相談先を現場配属前に確認する | 現場別の未整備項目と改善期限 |
| 閑散期を教育へ充てる | 材料、工具、安全、写真、日報を週ごとの課題にする | できる作業、要支援作業、指導時間 |
| 一人で現場へ出す場合も質問先を切らさない | 新人一人につき主担当・副担当を決め、写真・通話で確認できる時間帯を示す | 質問内容、回答時間、同じ質問の再発 |
| 答えだけでなく考え方を教える | まず本人の判断と理由を聞き、安全に関わる部分は即時修正する | 判断できた範囲と次に任せる範囲 |
定着は気合ではなく、入社後90日の変化を見る
職人が働き続けるかどうかを、採用時の印象や現場責任者の感覚だけで判断するのは危険です。同じ会社でも、配属先、教える人、通勤、繁忙期、担当する作業によって負担は変わります。
まず、入社日から90日までを一つの確認期間として扱います。初日、1週間後、30日後、60日後、90日後に、説明した労働条件、配属、教育内容、勤怠、本人から出た質問を同じ記録へ追記します。問題が起きたときだけ面談するのではなく、問題がなくても予定どおり確認する運用にします。
厚生労働省の第11次建設雇用改善計画も、担い手の確保・育成、若年者や女性を含む人材の定着、働き方改革や処遇改善を建設雇用の課題として扱っています。ただし、国の計画を掲げるだけでは会社の課題は見えません。自社で観察できる事実へ置き換える必要があります。
残す記録を、採用・配属・現場でつなぐ
| 記録 | 確認する内容 |
|---|---|
| 採用・入社時 | 説明した仕事内容、就業場所、労働時間、休日、賃金・手当、相談先 |
| 配属 | 現場、職長、担当作業、通勤方法、配置変更日と変更理由 |
| 教育 | 安全教育、技能指導、資格取得の予定と実施日、指導担当者 |
| 勤怠 | 始終業、時間外労働、休日、休暇。法定帳簿と社内観察を混同しない |
| 本人の声 | 困っている事実、希望、会社の回答、対応担当者、確認日 |
入社時の説明と実際の働き方に差があれば、その差を記録します。「慣れていない」で終わらせず、何を、誰が、いつまでに説明・変更するかを決めます。
健康情報や家庭事情など、必要以上の個人情報は集めません。閲覧者と保存期間を決め、労務管理上必要な記録と、改善会議で使う集計を分けます。
30日・60日・90日の面談は、同じ質問で比べる
面談は15〜20分でも構いません。直属の上司に話しにくい内容があるため、可能なら総務や別の責任者も相談先として示します。毎回、次の質問を同じ順番で確認すると変化を追いやすくなります。
- 入社前に聞いていた仕事と、実際の仕事で違う点はあるか。
- 今日の作業で、誰に聞けばよいか分からない場面はあるか。
- 危ない、無理がある、道具や手順が足りないと感じる作業はあるか。
- 勤務時間、休日、通勤、体力面で続けにくい点はあるか。
- 次に身につけたい技能と、そのために必要な経験・教育は何か。
「辞めないよね」と確認する面談では、本音を把握できません。回答を評価や叱責へ直結させず、事実、本人の希望、会社が約束した対応を分けて記録します。ハラスメントや安全上の申告は、通常の改善要望とは分けて社内規程に沿い、速やかに扱います。
職長会議で、辞める前の小さな変化を確認する
週1回、職長・工事責任者・人事担当で15分だけ確認します。対象は「辞めそうな人」ではなく、入社・異動・現場変更から90日以内の人と、勤務や配置に変化があった人です。
- 前週から勤務時間、欠勤、遅刻、休暇の取り方に変化があったか。
- 作業指示の理解、安全、道具、教育で止まっていることはないか。
- 特定の人へ残業、難作業、雑務が偏っていないか。
- 前回決めた対応を実施したか。本人へ結果を伝えたか。
- 今週変えることを一つ決め、担当者と期限を記録する。
本人の噂や性格評価を会議の材料にしません。「報告が遅い」ではなく「朝礼で作業変更を説明したが復唱確認をしていない」のように、確認できる出来事へ置き換えます。
現場が閉まった日と、本人が休めた日は分けて数える
時間外労働の上限規制を扱った建設業者の動画では、労働者を守る必要性を認めながら、従来の工期と人員のまま残業だけを減らせば、会社が回せる現場と売上が減るという難しさが語られています。また、スーパーゼネコンの閉所目標を読んだ施工管理の動画では、完全週休2日を進めるには工期を見直さない限り難しいという現場感が示されています。
休日数だけを増やしたように見えても、書類を自宅へ持ち帰る、平日の残業が増える、日給制の人の手取りが落ちる、別現場へ応援に出るなら定着改善にはつながりません。月次では次を分けて確認します。
| 見る項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 現場閉所日 | 現場として作業を止めた日。会社・個人の休日と同一とは限らない |
| 本人の実休日 | 会社業務、応援、移動、書類作成をしていない日 |
| 所定外の仕事 | 始業前準備、終業後の写真整理、持ち帰り書類、連絡対応 |
| 賃金への影響 | 残業減・休日増による手取り変化、手当や月給移行の有無 |
| 工程への影響 | 閉所を前提にした工期か、後工程や協力会社へ負担が移っていないか |
会社だけで工期を変えられない場合は、受注前に閉所日、実働日、書類作業、人員、天候予備日を工程へ入れ、発注者・元請へ必要工期を説明します。残業を本人の善意で埋める計画は、労務管理にも定着にも使えません。
退職面談は、引き留めより再発防止に使う
退職の意思が示されたら、無理な引き留めや責任追及をせず、本人が話せる範囲で事実を確認します。理由は一つに決めつけず、仕事内容、賃金・手当、労働時間・休日、通勤、健康、職場関係、教育・将来像、家庭事情など複数選択で記録します。
自由記述は本人を特定できない形に整理し、入社時説明との相違、どの時点で兆候があったか、会社が対応したかを確認します。少人数の会社では集計から個人が推測されやすいため、全社員へ詳細を共有しません。
退職者1人の理由だけで制度全体を変えず、同じ傾向が在職者面談、勤怠、安全報告にも表れているかを照合します。事実と会社側の仮説を分けることが重要です。
月1回、一つの改善を決めて翌月に検証する
月次会議では、採用人数だけでなく、入社後30日・90日の在籍状況、時間外労働、休日・休暇、安全上の申告、教育実施、面談で未解決の項目を確認します。人数が少ない場合は割合だけで結論を出さず、元となる人数も併記します。
改善は「コミュニケーションを増やす」のような抽象語ではなく、「新入社員の初週は職長が終業前に5分確認する」「配属前日に通勤と集合場所を文書で送る」のように実行できる形にします。担当者、開始日、対象、翌月に見る記録を決めます。
改善後に退職者が出ても、施策だけを原因と断定できません。逆に、退職者が出なかったことだけで成功とも断定できません。複数月の記録と本人の声を合わせ、続ける、直す、やめるを判断します。
Before deciding
実行前の注意
- この運用は離職防止や採用成果を保証するものではありません。個人の退職には、会社が把握・変更できない事情もあります。
- 労働条件、労働時間、賃金、安全衛生、ハラスメント、個人情報の扱いは個別事情で判断が異なります。労働局・労働基準監督署の相談窓口、社会保険労務士、弁護士などへ確認してください。
Checklist
実務で確認すること
- 入社時に説明した労働条件、仕事内容、相談先を記録して本人へ渡す
- 入社後1週間、30日、60日、90日の確認日を先に予定へ入れる
- 配属、職長、担当作業、教育内容の変更日と理由を残す
- 勤怠、安全、本人の声を同じ人の印象だけで判断しない
- 新人ごとに主担当・副担当と質問できる時間帯を決める
- 閑散期に行う教育内容を週単位で予定へ入れる
- 現場閉所日、本人の実休日、持ち帰り仕事、手取り変化を分けて見る
- 週次会議では事実、対応、担当者、期限を一組で記録する
- 退職理由は複数の要因として集計し、個人が特定される共有を避ける
- 月次で一つの改善を試し、翌月に記録と本人の声で見直す
Primary sources
参考にした一次情報
- 厚生労働省第11次建設雇用改善計画を策定しました
- 厚生労働省第11次建設雇用改善計画
- 厚生労働省建設・港湾労働対策
- 厚生労働省建設業・ドライバー・医師等の時間外労働の上限規制