ビルより高いクレーンは、誰が持ち上げたのか
高層ビルを見上げると、建物より先にクレーンの先端が空へ届いています。
不思議なのは、建物が伸びるたびにクレーンも高くなる点です。完成時には、その巨大な機械が跡形もなく消えます。
答えは、建物を足場にして高さを変える段取りにあります。昇る工程と降りる工程は、建築の計画そのものです。
なぜ地上のクレーンだけでは届かないのか
地上に置く移動式クレーンは、吊る荷が遠くなるほど能力が下がります。超高層では、道路や隣地も大きな作業半径を許しません。
タワークレーンは建物の近くに立ち、材料を高く、繰り返し運びます。鉄骨、鉄筋、型枠、設備機器を工程に合わせて上げます。
ただし、高さだけを追えばよいわけではありません。荷の重さ、吊る距離、風、建物との接続、解体の出口まで先に決めます。
クライミングでは、何を継ぎ足して上がるのか
クライミングとは、タワークレーンが建物の進行に合わせて高さを上げる作業です。定義はこれで十分です。
マストクライミングでは、支柱となるマストを上へ継ぎ足します。鹿島建設は、吊り上げたマスト部材を上部へ接続する仕組みを公開しています。
フロアクライミングでは、クレーンを建物の床や支持部に固定し、油圧装置で本体を一段ずつ引き上げます。大林組は、鉄骨造の超高層でこの方式を通常採用すると説明します。
- マストクレーンの支柱です。継ぎ足す本数と支持条件を工程ごとに管理します。
- 支持部建物側でクレーンを受ける部位です。躯体の強度と施工段階を確認します。
- アンカー・控え風や荷重で塔体が動かないよう、建物と結ぶ仮設部材です。
- 逆クライミング完成後にマストや支持を外しながら、クレーンを低くする作業です。
最後に難しくなるのは解体です。上に残った機械で自分を丸ごと降ろせないため、順番に小さくしていきます。
どの現場で昇降の段取りが問われたのか
東京スカイツリー
大林組は、東京スカイツリーで4基のタワークレーンを使った解体工程を公開しています。建て方用の2基は、塔体の建設とともにマストクライミングを行いました。
この2基は荷揚げ用の2基より高い位置にありました。そこで先にマストを外して高さを下げ、クレーン同士で解体できる位置へ戻しました。
浜松医療センター新病院整備工事
清水建設は工事かわら版で、タワークレーン「家康号」が上部へせり上がる予定を伝えています。病院のように工程と安全動線が密な現場では、昇る日も施工計画の一部です。
クライミング中は、通常の揚重を止める時間が生まれます。建築、設備、搬入の作業を前後へどう振り分けるかが、現場全体の生産性を左右します。
大型陸上風車の建設
清水建設など3社は、風車用の移動式タワークレーンを開発しました。建設後はクライミングダウンを行い、架台の脚部を外して多軸台車へ載せます。
建物の内部に残る高層クレーンとは違い、次の風車地点へ移す計画が要です。同じ下降でも、搬出方法が変わると仮設の考え方も変わります。
面白さは、最後の一台をどう消すかにある
クレーンは材料を上げるための機械ですが、完成に近づくほど自分を降ろす対象になります。
大きな機械で大きな機械を外し、次に小さな機械を使います。最後は屋上の小型デリックなどで部材を分け、エレベーターや開口部から搬出します。
高層建築では、完成形の図面だけでは足りません。建設中の各階がどこまで荷重を受け、何が残るかを時間軸で描く必要があります。
発注前に揚重計画の何を確認するか
| 確認項目 | 確認する理由 |
|---|---|
| 最大荷重と作業半径 | 最も重い部材を、実際に吊る距離で扱えるかを確認するため。 |
| 支持部の設計 | 建物側の躯体が施工時の反力と風荷重を受けるため。 |
| 強風時の運用 | 風速の基準、退避、旋回、再開判断を事前に決めるため。 |
| 近隣と上空の条件 | 道路、鉄道、隣接地、送電線、航空法の制約が作業範囲を変えるため。 |
| 昇降・解体の工程 | クライミング日に止まる作業と、最後の搬出方法を確認するため。 |
| 合図と立入管理 | 玉掛け、荷の下、旋回範囲の事故を防ぐため。 |
許可だけで高層の揚重経験は読めません。類似高さ、最大部材、都市部の近隣条件を、実績資料で確認します。
許可業種から候補をどう探すか
タワークレーンの計画は、建物全体を担う会社と専門工事会社が組んで進めます。許可情報では、まず工事の中心に近い業種から候補を広げます。
- 建築一式工事高層建築の工程、躯体、揚重を統合する会社を探す入口です。建築一式工事の会社一覧
- 鋼構造物工事鉄骨建方の比重が大きい計画で候補になります。鋼構造物工事の会社一覧
- とび・土工・コンクリート工事仮設、玉掛け、足場、基礎まわりを含めて確認します。とび・土工・コンクリート工事の会社一覧
参考にした技術資料
- 鹿島建設タワークレーンはどうやってビルの上にのぼっていくの?で、マストとフロアの二方式を確認しました。
- 大林組タワークレーンの特徴・仕組みとタワークレーンの解体で、支持と逆クライミングを確認しました。
- 大林組東京スカイツリーのタワークレーン解体で、4基の解体順序を確認しました。
- 清水建設浜松医療センター新病院整備工事かわら版とS-Movable Towercraneを参照しました。
- 大成建設テコアップシステムで、RC高層施工での床開口と昇降の考え方を確認しました。
よくある質問に答えます
クレーンは自分の重さをどう支えますか?
建物側の支持部や基礎、マスト、控えを計画し、施工段階ごとに荷重と風の条件を確認します。機械だけで自立するのではなく、建物と仮設計画が一体で支えます。
完成後にクレーンを外す方法はありますか?
大きなクレーンを逆クライミングで下げ、残る小型機で部材を降ろします。最後の小型機は、屋上のデリックなど別の揚重設備で分解して地上へ搬出します。
発注者は機種名まで決める必要がありますか?
通常は施工者が計画します。発注者は、揚重計画、風対策、近隣への影響、解体までの工程が説明されているかを確認します。