巨大な筒が、地中を掘り進む
地下鉄も下水道も、高速道路のトンネルも、地上を大きく掘り返さずに造られています。
その地中で使われているのがシールド工法です。円筒形の機械が地山を支えながら掘り進み、後方でトンネルの壁を組み立てていきます。
この記事では、仕組み、東京湾アクアラインなどの実例、発注前に見る確認ポイントを整理します。
なぜ、地上を掘らずに済むのか
トンネルを造る方法は、シールド工法だけではありません。地表から溝状に掘り下げて構造物を造り、埋め戻す開削工法もあります。
開削工法は浅い深度なら合理的です。ただし地上に道路、鉄道、建物、埋設管が集中する都市部では、大きく掘り返す余地がありません。交通規制や近隣への影響も長期化します。
シールド工法なら、地上への影響を抑えながら、地中で目的の深さとルートを掘り進められます。地表の環境をほぼそのままに、その下でトンネルを通す発想です。
開削工法が向く場面
浅い深度で、地上を掘り返せる用地がある短い区間の工事です。
シールド工法が向く場面
都市部の地下、深い深度、地上の交通・構造物への影響を抑えたい長距離のトンネルです。
シールドマシンが掘り進むと、地中で何が起きるのか
シールド工法は、円筒形のシールドマシンで地山を支えながら掘削し、掘った後方でセグメントと呼ばれるブロックを組み立てて、トンネルの壁(覆工)を築いていく工法です。
マシン前面のカッターで地山を削り、切羽(掘削中の先端の地山)は泥土や泥水に圧力をかけて安定させます。掘り進んだ分だけ後方でセグメントをリング状に組み立て、トンネルはその中を前進しながら伸びていきます。
切羽の安定方式には、大きく泥土圧式と泥水式があります。泥土圧式は掘削した土砂を泥土化し、その圧力で切羽を支える方式です。スクリューコンベアの排土量を調整しながら圧力を保ち、粘性土から砂礫まで幅広い地盤に対応します。泥水式は泥水を送り込んで切羽に圧力をかけ、掘削土は泥水と一緒に地上へ送って分離する方式です。透水性の高い砂質土では、泥水が地盤に逃げる逸泥に注意が必要です。東京湾アクアラインの海底トンネルには、この泥水式が採用されました。
- カッターマシン前面で地山を削る部分。
- 切羽掘削中のトンネル先端の地山。泥土や泥水で圧力をかけて安定させる。
- セグメント掘った後方で組み立てる、トンネルの壁を構成するブロック。
- 裏込め注入セグメントと地山の隙間を埋め、沈下を抑えるための注入作業。
| 方式 | 切羽の安定方法 | 向いている地盤 |
|---|---|---|
| 泥土圧式 | 掘削土砂を泥土化し、その圧力で支える。 | 粘性土、砂質土、互層地盤など幅広く対応。 |
| 泥水式 | 泥水を送り込み、圧力をかけて支える。掘削土は泥水とともに地上へ送る。 | 比較的均質な地盤。高水圧下の海底工事にも実績がある。 |
どこでシールドマシンが使われたのか
東京湾アクアラインの海底トンネル
東京湾アクアラインの海底トンネル区間には、泥水式シールド工法が使われました。マシンの口径は14.14mで、当時世界最大級です。株式会社熊谷組は、このうち延長約2,800mの区間を施工したと自社の施工実績で説明しています。海底下0.6MPaに達する高水圧、軟弱な粘性土地盤、海底地中でのトンネル接合など、当時のシールド技術を集めた工事でした。
アクアラインは1997年12月に開通しました。全長15.1kmのうち、川崎側の約9.5kmが海底トンネル、残りが橋梁区間です。
東京外環道の大深度トンネル
東京外かく環状道路(関越〜東名間)でも、直径16mクラスの泥土圧式シールドマシンが使われました。地表への影響を抑えられるとされる大深度地下(40m以深)を通すルートです。
ただし2020年10月、東京都調布市でシールドトンネル直上の市道が陥没する事故が起きました。事業者の東日本高速道路は、有識者委員会の検証を経て、トンネル工事と陥没・空洞の因果関係を認めています。深い場所を掘るから安全、とは言い切れないことを示した事例です。
都市の地下鉄・下水道
地下鉄や下水道の建設でも、シールド工法は標準的な選択肢です。首都圏のある地下鉄工事では、駅間を結ぶ区間をシールドマシンで掘り進め、既存の道路や建物の直下を大きな影響なく通過しています。
発進・到達・接合部では、地盤凍結工法と組む場面もある
シールドマシンが地中から地上、あるいは別のトンネルへ抜ける瞬間は、リスクが集中する場面です。発進部や到達部では、マシンが仮設の壁を破って地山に入る、あるいは出る際に、土砂や地下水が流れ込む恐れがあります。
この局所的な範囲を安定させる方法の一つが地盤凍結工法です。発進・到達部や、シールドトンネル同士を地中でつなぐ接合部を凍らせて固め、掘削・接合作業の間だけ止水と土留めを両立させます。地盤凍結工法の記事で紹介した隅田川幹線その3工事も、既設シールドトンネルの拡幅・接合に凍結工法を使った事例です。
どちらも単独で完結する工法ではなく、トンネル工事全体の一部です。発注検討では、シールド本体の施工計画だけでなく、発進・到達・接合部の補助工法まで含めて確認する方が実態に近づきます。
発注前に見るべき確認ポイント
「シールド工法」という許可業種はありません。トンネルや大規模な土工事を含む工事は、まず土木一式工事の許可を持つ会社が元請けになります。掘進や立坑まわりの土工事、地盤改良を専門会社が担う場面もあり、とび・土工・コンクリート工事の会社が関わることもあります。
| 確認項目 | 見る理由 | 聞いておきたいこと |
|---|---|---|
| 地盤・地下水調査 | 切羽の安定方式(泥土圧式/泥水式)の選定を左右するため。 | どの地盤条件を前提に方式を選んだか。 |
| 発進・到達部の対策 | マシンが地山に出入りする瞬間は土砂・地下水の流入リスクが高いため。 | 薬液注入や地盤凍結などの補助工法を使うか。 |
| 近接構造物への影響 | 掘進に伴う地盤変位が、周辺の道路・建物・埋設物に影響することがあるため。 | 変位計測の頻度と、異常時にどう止めるか。 |
| セグメント・裏込め | 覆工の品質と、掘進後の沈下抑制に関わるため。 | 裏込め注入のタイミングと管理値。 |
| 施工体制 | 元請、専門会社、計測担当の役割分担が工程と安全を左右するため。 | 設計、掘進管理、計測の責任者は誰か。 |
- 土木一式工事トンネルや立坑を含む工事は、まずここから。土木一式工事の会社一覧
- とび・土工・コンクリート工事掘削、土留め、地盤改良まわりで候補に入る業種です。とび・土工・コンクリート工事の会社一覧
許可業種は候補整理の入口です。過去に近い条件(大深度、海底下、既設構造物との接続、都市部の近接施工)を扱った実績があるかどうかは、会社ごとに確認してください。
参考にした資料
この記事は、公開資料をもとに一般的な考え方を整理したものです。個別工事への適用可否は、地盤調査と施工計画で判断してください。
- シールド工法技術協会工法概要:泥土加圧シールド工法を確認しました。
- 熊谷組東京湾アクアラインの施工実績を確認しました。
- 川崎重工業泥水式シールドで、マシン方式の説明を確認しました。
- 東京湾横断道路東京湾アクアラインの建設で概要を確認しました。
- 国土交通省東京外かく環状道路工事現場付近での地表面陥没事故についてで、事故の経緯を確認しました。
- 日経クロステック東京外環トンネル陥没事故はなぜ起きた?を参照しました。
よくある質問
シールド工法なら地上への影響はゼロですか?
ゼロとは言えません。大深度地下でも地盤変位や、まれに陥没事故が起きています。東京外環道の事例では、事業者がトンネル工事と地表陥没・空洞の因果関係を認めました。深く掘るほど安全とは限らず、地盤条件と施工管理をあわせて確認する必要があります。
泥土圧式と泥水式、どちらが優れていますか?
優劣ではなく、地盤条件との相性です。泥土圧式は粘性土から砂礫まで幅広い地盤に対応し、泥水式は高水圧下の掘進や均質な地盤で実績があります。方式の選定理由を、地盤調査の結果とあわせて説明できる会社かを確認します。
個人の住宅工事でシールド工法を検討することはありますか?
通常はありません。シールド工法は大規模なトンネルや地下構造物向けの工法で、費用も規模も個人住宅の工事とは前提が異なります。個人が発注する掘削・土工事では、開削など別の工法が現実的な選択です。