地面を凍らせて、地下水を止める
地面を凍らせて、氷の壁で地下水を止める——。
そう聞くと、SFのように感じるかもしれません。けれど東京都下水道局や東京電力は、地下水対策が必要な現場でこの技術を採用しました。
この記事では、仕組み、使われた現場、発注前の確認ポイントを整理します。
なぜ、わざわざ地面を凍らせるのか
地下工事で怖いのは、水そのものだけではありません。水を含んだ砂が流れ込むと、掘削面が崩れます。作業空間も一気に不安定になります。
ポンプで水を抜ける現場ばかりではありません。周りに鉄道、道路、下水道、ガス管があれば、大きく掘り広げにくい。そこで設計者は、掘る場所の周辺だけを冷やす選択肢を持ちます。
狙いはシンプルです。水の通り道を一時的に止め、地盤の崩れも抑える。地下で安全に作業するための時間をつくるわけです。
向いている現場
地下水が多く、開削しにくい地下工事。シールドの到達部や地中接合、立坑まわりなど、限られた範囲を守りたい場面です。
慎重に見る現場
地下水の流れが速い、凍結範囲が長い、近接構造物が沈下に弱い。こうした条件では、補助対策と計測管理が重くなります。
凍結管を入れると、地下で何が起きるのか
地盤凍結工法は、地中に凍結管を入れて冷媒を循環させ、土中の水を凍らせて掘削範囲を守る工法です。
凍結管の周りから温度が下がる仕組みです。凍った地盤が、水と土砂の動きを抑えます。冷媒はブラインや液体窒素などです。
ポイントは、凍らせること自体より「つながったか」の確認です。地中では目で見えません。測温管の値、間隙水圧、排水状況などを組み合わせて判断します。
地下水流が速いと、流れる水が熱を運びます。凍結しにくい場所では、凍結管の間隔を狭める、冷却力を上げる、上流側で水の流れを弱める、といった対策が候補です。
- 凍結管地中に入れて、周囲の地盤から熱を奪う管。
- 冷却設備冷媒を低温に保ち、凍結管へ循環させる設備。
- 温度計測凍結の進み具合を確認するための管理項目。
- 維持冷却施工中に凍った状態を保つための運転。
| 管理すること | なぜ重要か |
|---|---|
| 地中温度 | 凍結の進み具合と、維持中の温度上昇を読むため。 |
| 閉塞確認 | 水の通り道が残っていると、掘削時に流入リスクが残るため。 |
| 地下水流 | 流速が速いと冷却効果を奪い、凍結の成立を遅らせるため。 |
| 解凍時の沈下 | 凍った地盤が戻る過程で、周辺構造物に影響するため。 |
ここが職人技だけでなく、管理技術でもある理由です。
どの現場で地面を凍らせたのか
隅田川幹線その3工事
有名な事例の一つが、東京都下水道局の「隅田川幹線その3工事」です。施工者は東急建設株式会社。地下約40mで既設シールドトンネルを拡幅し、新しい幹線を地中で接続しました。
計画凍土量は3,700m³。拡幅部の上には道路や京成電鉄の施設があり、地下には多数の埋設管がありました。地上から大きく開削する選択は取りにくい条件です。
この現場で難しいのは、凍らせた後です。凍結中は凍上、解凍時は沈下を見ます。建設機械施工誌は、地中温度から凍土厚を推定し、三次元モデルで凍土の形を把握する管理を紹介しています。
福島第一原子力発電所の陸側遮水壁
福島第一原子力発電所の陸側遮水壁は、強く記憶に残る大規模事例です。東京電力ホールディングスは、建屋に地下水を近づけない対策として凍土方式を説明しています。日建連の土木賞ページは、施工者を鹿島建設株式会社と記載しています。
規模も特殊です。日建連は延長約1,500m、深さ約30m、計画凍土量約70,000m³の遮水壁と説明しています。鹿島建設の資料では、凍結管1,568本、測温管359本、冷凍機30台という計画概要を確認できます。
ここでは、短期の仮設だけでは済みません。長期運用、地下水流による凍結阻害、既存埋設物、高い放射線量下での施工。通常の地下工事とは違う難しさが重なっています。
石狩湾新港発電所の海底シールド
鹿島建設は、北海道小樽市の石狩湾新港発電所1号機新設工事でも技術発表を出しました。液化CO2を冷媒に使い、海底シールドと既設放水口の接続に適用した事例です。
海底下でシールドマシンとJ字型放水管をつなぐ場面では、止水性と施工精度の両方が問われます。鹿島建設は、従来方式に比べて温室効果ガス排出量を約50%削減できることも確認したと発表しています。
面白いのは、地盤を材料として使うところ
この工法の面白さは、外から壁を運び込まない点です。現場にある土と水を、その場で一時的な構造体に変えます。
ただし魔法ではありません。温度、時間、地下水流が結果を左右します。冷やす範囲が広いほど、計測と維持管理も重くなります。
- 水を敵にしない土の中の水を利用し、地下水の動きを抑える。
- 必要な期間だけ効かせる永久構造物ではなく、施工中の安全を支える。
- 温度で判断する見えない地中を、計測値で管理する。
- 解凍後まで考える沈下や周辺構造物への影響を施工計画に入れる。
意外なのは、凍らせる技術だけで完結しないことです。地下水の勢いを弱めるために薬液注入を併用する場面もあります。冷やす力を上げるだけでなく、水の流れ方そのものを読む技術でもあります。
発注前に見るべき技術管理のポイント
ここからは、業者を探す発注検討者向けです。工法名だけで候補を選ぶと危うい。次の項目を説明できる会社か確認してください。
| 確認項目 | 見る理由 | 聞いておきたいこと |
|---|---|---|
| 地盤・地下水調査 | 土質、含水状態、水位、流速で冷却計画が変わるため。 | どの調査結果を設計条件にしたか。 |
| 凍結範囲 | 守る範囲と掘る順序を分けて考えるため。 | 凍結管の配置と到達判定をどう決めるか。 |
| 温度計測 | 地中の進み具合を目視できないため。 | 測温管の位置、管理値、掘削開始の基準は何か。 |
| 閉塞確認 | 温度だけでは水みちの残りを判断しにくいため。 | 間隙水圧や排水で何を確認するか。 |
| 周辺影響 | 凍上や解凍沈下が道路、鉄道、埋設物に影響するため。 | 変位計測と異常時対応をどう組むか。 |
| 解凍計画 | 工事が終わった後も地盤は元の状態へ戻るため。 | 強制解凍、自然解凍、沈下対策をどう選ぶか。 |
| 施工体制 | 元請、専門会社、計測担当の分担が成果を左右するため。 | 設計、冷却、掘削、計測の責任者は誰か。 |
参考にした技術資料
この記事は、公開資料をもとに一般的な考え方を整理したものです。個別工事への適用可否は、地盤調査と施工計画で判断してください。
- 土木研究所地盤凍結工法指針(案)を確認しました。
- 東京都下水道局隅田川幹線工事の技術資料を参照しました。
- 建設機械施工国内最大級!大深度で3,700m³に及ぶ凍結工法で、発注者と施工者を確認しました。
- 東京電力HD凍土方式の陸側遮水壁の設置を確認しました。
- 日建連福島第一原子力発電所陸側遮水壁(凍土壁)で施工者情報を確認しました。
- 日本雪氷学会凍土の知識 人工凍土壁の技術で、地下水流と温度計測の考え方を確認しました。
- 鹿島建設凍土方式 陸側遮水壁工事と液化CO2地盤凍結工法の適用事例を参照しました。
よくある質問
地面はずっと凍ったままですか?
多くの地下工事では、施工中だけ地盤を安定させる仮設的な使い方が中心です。目的の作業が終われば維持冷却を止め、解凍後の沈下や周辺影響も管理します。福島第一原子力発電所の陸側遮水壁のように、長期運用を前提にした特殊な例もあります。
普通の地盤改良会社に頼めますか?
許可業種だけでは判断できません。地盤調査、地下水評価、冷却設備、温度計測、掘削計画をまとめて管理する体制が必要です。元請、専門会社、計測会社の役割分担も確認してください。
最初にどの許可業種を見ればいいですか?
地下構造物やトンネルを含む案件では土木一式工事を見ます。掘削や土留めを含む案件では、とび・土工・コンクリート工事も候補です。管路や水道施設が主対象なら、管工事や水道施設工事も確認します。