重さ400tの屋根を、空気が持ち上げている
東京ドームの屋根は、鉄骨の骨組みだけで持ち上がっているわけではありません。建物の中を外より少しだけ高い圧力に保ち、その力で膜屋根を押し上げています。
差はわずか0.3%。それでも二重の膜と28本のケーブルを支える。大空間建築では、材料の強さだけでなく、空気の状態まで構造の一部になります。
空気を止めれば成り立たない建物を、日常的に人が集まるスタジアムとして安全に運転する。その仕組みを見ていきます。
なぜ重い鉄骨屋根ではなく、空気を使ったのか
野球場や展示場では、柱を置かない大きな空間が求められます。屋根を重い梁だけで支えると、部材は大きくなり、施工も基礎も重くなります。
膜は軽い一方、押す力には強くても、曲げには弱い材料です。そこで膜を張り、室内を加圧して、常に外側へふくらんだ状態を保ちます。軽い屋根を大きく広げるための合理的な選択でした。
梁・トラスで支える屋根
骨組みが屋根荷重を主に受けます。梁せいと支持点の計画が空間を決めます。
空気で支える膜屋根
内外の圧力差が膜に張力を与えます。送風と出入口の管理が構造性能に直結します。
空気膜構造では、何が屋根を支えているのか
空気膜構造は、室内外の気圧差で膜屋根を支持する構造です。定義は一度だけ覚えれば足ります。東京ドームは加圧送風ファンで室内の気圧を外気より0.3%高く保ちます。
屋根は内膜0.35mm、外膜0.8mmの二重膜で、28本のケーブルに支えられます。膜とケーブルの総重量は約400tです。薄い膜を使えるのは、膜を空気圧で常に引っ張った状態に置くからです。
- 加圧送風ファン室内へ空気を送り、必要な内圧を維持します。東京ドームには計36台あります。
- 回転ドア・バランスドア出入りで空気が急に抜けるのを抑えます。大量退場時には安全に対応する仕組みが必要です。
- ケーブル膜の形を整え、荷重を周辺構造へ伝えます。
- 二重膜透光性を持たせつつ、膜間の温風で融雪にも対応します。
東京ドームでは、空気をどう建築に組み込んだのか
東京ドーム: 日本初の大型空気膜スタジアム
東京ドームは1988年に竣工した日本初の全天候型多目的スタジアムです。屋根は低ライズケーブル補強空気膜構造です。竹中工務店と日建設計が設計に関わり、竹中工務店が施工しました。屋根は内野から外野へ向かって1/10勾配で傾け、日本庭園への日照も計画条件に入れています。
屋根を膨らませた日
東京ドームの公式資料は、1987年6月28日に送風を始めたと記録しています。屋根は午前8時30分に目標高さへ到達しました。膜だけを先に上げるのではなく、屋根から吊る設備も施工計画に組み込みます。膨らませる作業は完成演出ではなく、構造の最終工程です。
運転を続ける設備
イベント時には36台中10〜18台のファンを運転し、閉場時は2台で対応すると施設側が公表しています。風、降雪、入退場、火災時の排煙は別々の課題に見えます。空気膜構造では、内圧維持と避難計画を同時に成立させる必要があります。
面白さは、空調設備が構造の仲間になることだ
一般の建物では、送風機は室内環境を整える設備です。空気膜構造では、送風機の稼働状態が屋根の形そのものに関わります。建築、構造、設備、防災を分けて考えにくい理由がここにあります。
空気圧は目に見えません。それでも圧力計、風速、膜の変形、ファンの運転状態を管理すれば、巨大な屋根を日々使えます。見えない量を測って建物を成立させる点が、この構造のいちばん現代的な部分です。
その代わり、改修の順番も慎重に決めます。膜だけ、扉だけ、送風機だけを別々に更新しても、内圧と避難の条件を崩してはいけません。設計時から、将来の点検、部品交換、イベントを止める期間まで見通す必要があります。大空間の快適さは、日常の設備保全で守られます。
発注前に何を確認すると、大空間屋根の提案を比べられるか
| 確認項目 | 見る理由 | 質問例 |
|---|---|---|
| 荷重・耐風設計 | 膜、ケーブル、周辺支持部を一体で設計するため。 | 風・雪・吊り荷をどの状態で検討したか。 |
| 送風の冗長性 | 内圧維持が構造に関わるため。 | 故障・停電時に何台で性能を保つか。 |
| 出入口と避難 | 空気を逃がさず大量の人を避難させる必要があるため。 | 通常時と非常時の扉運用はどう違うか。 |
| 膜材の更新 | 紫外線、汚れ、疲労による性能変化を考えるため。 | 点検方法、保証範囲、更新時の仮設計画は何か。 |
| 防災連動 | 火災時の排煙と内圧を両立させるため。 | 警報、送風、扉、排煙はどう連動するか。 |
許可業種から候補をどう探すか
大型ドームを総合的に建設・改修するなら建築一式工事が入口です。ケーブルや大きな鉄骨支持部は鋼構造物工事、送風機や可動設備は機械器具設置工事の実績も確認します。
- 建築一式工事設計調整、躯体、屋根、防災、工程を総合管理する候補です。建築一式工事の会社一覧
- 鋼構造物工事ケーブル支持部や鋼製部材の製作・据付を確認します。鋼構造物工事の会社一覧
- 機械器具設置工事送風機など大型機器の据付・更新で候補になります。機械器具設置工事の会社一覧
許可だけで膜構造の経験までは分かりません。類似規模での風荷重、非常電源、膜更新、営業を続けながらの改修を技術資料で確認してください。
参考にした技術資料
- 東京ドームシティ東京ドームとはで気圧差、膜、ケーブル、ファン、扉の仕様を確認しました。
- 竹中工務店空気膜ドームで大空間技術としての位置づけを確認しました。
- 日本膜構造協会低ライズケーブル補強空気膜構造の構造特性で東京ドームの構造形式を確認しました。
- 建設業振興基金傾いた膜屋根をどう膨らませた?で設計・施工と施工時の概要を確認しました。
よくある質問
東京ドームの中は息苦しくありませんか?
内圧は外気より0.3%高い程度で、東京ドームは人体にはほとんど感じられないと説明しています。
停電すると屋根はすぐ落ちますか?
空気膜建築では送風設備、非常電源、出入口の制御を含めて安全計画を組みます。個別施設の非常時運用は施設管理者の計画に従います。
空気膜構造は仮設テントと同じですか?
原理は共通しますが、恒久施設では膜材、ケーブル、送風、防火、避難、維持管理を建築物として総合設計します。