建設技術図鑑

東京ドームの屋根は空気で支えられている

東京ドームは、わずかな気圧差で膜屋根を支える大型エアドームです。空気膜構造の仕組み、施工と運転、発注前に見る膜・送風・防災計画を整理します。

更新日
2026年7月11日
読了目安
10分
テーマ
膜構造・大空間・建築設備
東京ドームの二重膜屋根、加圧送風ファン、回転ドア、28本のケーブルを示す建物断面図

重さ400tの屋根を、空気が持ち上げている

東京ドームの屋根は、鉄骨の骨組みだけで持ち上がっているわけではありません。建物の中を外より少しだけ高い圧力に保ち、その力で膜屋根を押し上げています。

差はわずか0.3%。それでも二重の膜と28本のケーブルを支える。大空間建築では、材料の強さだけでなく、空気の状態まで構造の一部になります。

空気を止めれば成り立たない建物を、日常的に人が集まるスタジアムとして安全に運転する。その仕組みを見ていきます。

なぜ重い鉄骨屋根ではなく、空気を使ったのか

野球場や展示場では、柱を置かない大きな空間が求められます。屋根を重い梁だけで支えると、部材は大きくなり、施工も基礎も重くなります。

膜は軽い一方、押す力には強くても、曲げには弱い材料です。そこで膜を張り、室内を加圧して、常に外側へふくらんだ状態を保ちます。軽い屋根を大きく広げるための合理的な選択でした。

梁・トラスで支える屋根

骨組みが屋根荷重を主に受けます。梁せいと支持点の計画が空間を決めます。

空気で支える膜屋根

内外の圧力差が膜に張力を与えます。送風と出入口の管理が構造性能に直結します。

空気膜構造では、何が屋根を支えているのか

空気膜構造は、室内外の気圧差で膜屋根を支持する構造です。定義は一度だけ覚えれば足ります。東京ドームは加圧送風ファンで室内の気圧を外気より0.3%高く保ちます。

屋根は内膜0.35mm、外膜0.8mmの二重膜で、28本のケーブルに支えられます。膜とケーブルの総重量は約400tです。薄い膜を使えるのは、膜を空気圧で常に引っ張った状態に置くからです。

  • 加圧送風ファン室内へ空気を送り、必要な内圧を維持します。東京ドームには計36台あります。
  • 回転ドア・バランスドア出入りで空気が急に抜けるのを抑えます。大量退場時には安全に対応する仕組みが必要です。
  • ケーブル膜の形を整え、荷重を周辺構造へ伝えます。
  • 二重膜透光性を持たせつつ、膜間の温風で融雪にも対応します。

東京ドームでは、空気をどう建築に組み込んだのか

東京ドーム: 日本初の大型空気膜スタジアム

東京ドームは1988年に竣工した日本初の全天候型多目的スタジアムです。屋根は低ライズケーブル補強空気膜構造です。竹中工務店と日建設計が設計に関わり、竹中工務店が施工しました。屋根は内野から外野へ向かって1/10勾配で傾け、日本庭園への日照も計画条件に入れています。

屋根を膨らませた日

東京ドームの公式資料は、1987年6月28日に送風を始めたと記録しています。屋根は午前8時30分に目標高さへ到達しました。膜だけを先に上げるのではなく、屋根から吊る設備も施工計画に組み込みます。膨らませる作業は完成演出ではなく、構造の最終工程です。

運転を続ける設備

イベント時には36台中10〜18台のファンを運転し、閉場時は2台で対応すると施設側が公表しています。風、降雪、入退場、火災時の排煙は別々の課題に見えます。空気膜構造では、内圧維持と避難計画を同時に成立させる必要があります。

面白さは、空調設備が構造の仲間になることだ

一般の建物では、送風機は室内環境を整える設備です。空気膜構造では、送風機の稼働状態が屋根の形そのものに関わります。建築、構造、設備、防災を分けて考えにくい理由がここにあります。

空気圧は目に見えません。それでも圧力計、風速、膜の変形、ファンの運転状態を管理すれば、巨大な屋根を日々使えます。見えない量を測って建物を成立させる点が、この構造のいちばん現代的な部分です。

その代わり、改修の順番も慎重に決めます。膜だけ、扉だけ、送風機だけを別々に更新しても、内圧と避難の条件を崩してはいけません。設計時から、将来の点検、部品交換、イベントを止める期間まで見通す必要があります。大空間の快適さは、日常の設備保全で守られます。

発注前に何を確認すると、大空間屋根の提案を比べられるか

確認項目見る理由質問例
荷重・耐風設計膜、ケーブル、周辺支持部を一体で設計するため。風・雪・吊り荷をどの状態で検討したか。
送風の冗長性内圧維持が構造に関わるため。故障・停電時に何台で性能を保つか。
出入口と避難空気を逃がさず大量の人を避難させる必要があるため。通常時と非常時の扉運用はどう違うか。
膜材の更新紫外線、汚れ、疲労による性能変化を考えるため。点検方法、保証範囲、更新時の仮設計画は何か。
防災連動火災時の排煙と内圧を両立させるため。警報、送風、扉、排煙はどう連動するか。

許可業種から候補をどう探すか

大型ドームを総合的に建設・改修するなら建築一式工事が入口です。ケーブルや大きな鉄骨支持部は鋼構造物工事、送風機や可動設備は機械器具設置工事の実績も確認します。

許可だけで膜構造の経験までは分かりません。類似規模での風荷重、非常電源、膜更新、営業を続けながらの改修を技術資料で確認してください。

参考にした技術資料

よくある質問

東京ドームの中は息苦しくありませんか?

内圧は外気より0.3%高い程度で、東京ドームは人体にはほとんど感じられないと説明しています。

停電すると屋根はすぐ落ちますか?

空気膜建築では送風設備、非常電源、出入口の制御を含めて安全計画を組みます。個別施設の非常時運用は施設管理者の計画に従います。

空気膜構造は仮設テントと同じですか?

原理は共通しますが、恒久施設では膜材、ケーブル、送風、防火、避難、維持管理を建築物として総合設計します。