建設技術図鑑

朝起きたら橋が架かっていた: 一括架設・送出し工法

線路や道路を長く止めずに橋を架ける一括架設・送出し工法。桁を横から動かす、地上で組んで押し出す仕組みと、発注時に見る架設計画を整理します。

更新日
2026年7月11日
読了目安
10分
テーマ
橋梁・架設・夜間工事
地組みした橋桁を手延べ機付きで橋軸方向へ送出す工程と、多軸台車で一括架設する工程を並べた図

夜のうちに、線路の上へ橋を動かす

昨日まで線路の上に何もなかったのに、朝には橋桁が渡っている。都市の鉄道や交通量の多い道路では、そんな工事が実際に行われます。

秘密は「短時間で組み立てる」ことではありません。橋を安全な場所で先に組み、交通を止められる限られた時間だけ移動させることです。

一括架設と送出し工法は、完成した橋を動かすように見えます。実際には、動かしている途中の橋が最も危険な構造物になります。

なぜ橋の真下で、少しずつ組み立てないのか

橋の下が鉄道、幹線道路、河川なら、ベントと呼ばれる仮設支柱を長期間置けないことがあります。線路を何日も止める、河川内へ仮設を設ける、道路を狭める工法は、周囲の影響が大きくなります。

そこで橋桁を脇のヤードで地組みし、架設の瞬間だけ交差部へ移動させます。現場作業を減らすのではなく、危険と交通影響が集中する時間を短くする考え方です。

送出し架設

橋桁の先端に手延べ機を付け、橋軸方向へ少しずつ押し出します。

一括架設

大ブロックまたは桁全体を、多軸台車やクレーンなどでまとめて移動・据え付けます。

橋桁を動かすとき、何が支えているのか

送出し工法は、地組みした桁の先端に軽い手延べ機を付け、自走台車や油圧装置で橋軸方向へ送出して架設する工法です。定義は一度で十分です。先端が次の橋脚へ届くまで、手延べ機が桁の張り出しを支えます。

一括架設は、完成に近い桁やブロックを、クレーン、多軸台車、横取り装置などで所定位置へまとめて据える方法です。どちらも完成後とは支点条件が違うため、架設時だけのたわみ、反力、風、移動速度を計算します。

  • 地組みヤード桁を安全に組み立て、検査する場所です。必要な長さと地耐力を確保します。
  • 手延べ機送出し中の桁先端に付ける軽量なトラスなどです。張り出し時の断面力を減らします。
  • 送出し装置油圧ジャッキ、自走台車、ウインチなどを現場条件に合わせて使います。
  • 降下・据付設備所定位置へ到達した桁を支承上へ安全に下ろします。

どんな現場で、橋をまとめて動かしたのか

新大阪駅ホーム桁増設工事

日本車両製造は、鉄道上空の橋梁建設で、下の空間を長期間占用しない送出し架設工法を多数適用してきたとしています。新大阪駅ホーム桁増設工事では、専用台車設備、反力管理システム、油圧ジャッキを使う桁降下装置を用い、短い作業時間での架設を実証しました。

上瀬野道路橋: 山陽本線をまたぐ送出し

広成建設は、安芸バイパス関連の上瀬野道路橋新設で、JR山陽本線上の桁を送出し工法で架設したと公表しています。線路上では送出し、前後の区間では220tオールテレーンクレーンを使い、場所ごとに架設法を使い分けました。

数久田ICオンランプ橋: 多軸台車による大ブロック移動

日本ピー・シー・テー建設は、沖縄県の数久田ICオンランプ橋で、多軸式特殊台車による大ブロック一括架設を施工実績として掲載しています。重量物を動かす技術は、桁をつくる技術とは別に、地耐力、走行経路、荷重分配を成立させる技術です。

面白さは、完成後より厳しい「途中の橋」を設計することにある

完成した橋は、設計した橋脚と支承で支えられます。送出し中の橋は、片側が大きく張り出し、先端はまだ支えられていません。一括架設なら、移動中の重心がわずかにずれても装置の反力が変わります。

だから架設は「運ぶ作業」ではありません。仮設構造を含めた別の構造設計です。橋を完成形だけで見ず、工場から現場、地組み、移動、降下、支承固定までの各状態で安全をつなぐ。ここに橋梁架設の面白さがあります。

短時間施工は、無理に急ぐことではありません。前日までに測定、連絡、予備機、復旧手順をそろえ、作業中は計画どおりに止まれる状態をつくることです。夜間に見える数時間は、長い準備の最後の一工程にすぎません。

発注前に何を確認すると、架設提案を比べられるか

確認項目見る理由質問例
架設時の構造計算完成時と支点・荷重が異なるため。最大張出し時のたわみと応力はどう管理するか。
地組み・移動ヤード桁重量を地盤が支える必要があるため。地耐力、仮設材、排水はどう確認したか。
反力・変位監視移動中の偏荷重を早く検知するため。何を計測し、停止基準をどう定めるか。
交通・鉄道協議規制時間と復旧条件が工程を決めるため。中止判断と予備日をどう計画するか。
風と落下物夜間でも気象で作業条件が変わるため。風速基準、飛来落下防止、連絡体制は何か。

許可業種から候補をどう探すか

道路橋を総合的に進める候補は土木一式工事から探します。鋼桁の製作・加工と組立てを一貫して担う範囲は鋼構造物工事、仮設・揚重・土工はとび・土工・コンクリート工事も確認対象です。

送出し経験の有無だけでは足りません。同じ支間、重量、交差条件での架設計画、計測記録、夜間規制下の復旧体制まで確認してください。

参考にした技術資料

  • 日本橋梁建設協会鋼橋の架設で手延べ機、送出し装置、降下設備を確認しました。
  • 駒井ハルテック送り出し工法で地組みから送出す工程を確認しました。
  • 日本車両製造送り出し工法で鉄道上空の施工と反力管理を確認しました。
  • 広成建設上瀬野こ線道路橋新設で送出し工法の施工事例を確認しました。
  • 日本ピー・シー・テー建設年度別工事実績で多軸式特殊台車による一括架設の実績を確認しました。

よくある質問

一括架設なら工事は一晩で終わりますか?

見える架設作業を短時間にできますが、桁の製作、地組み、仮設、輸送、試験、復旧準備には時間がかかります。

送出し工法と一括架設は同じですか?

どちらも下の交通への影響を抑える架設法ですが、送出しは桁を橋軸方向へ押し出し、一括架設は完成に近い大ブロックを移動・据付する考え方です。

どんな橋でも使えますか?

橋の形式、重量、支間、地組みヤード、輸送経路、交差物件、風、交通規制で適用性が変わります。