建設技術図鑑

海の上に空港を造る: 羽田D滑走路

羽田空港D滑走路は、埋立と桟橋を組み合わせた海上空港です。多摩川の流れを通す構造、198基のジャケット、プレキャスト床版、発注時の確認点を整理します。

更新日
2026年7月11日
読了目安
12分
テーマ
空港・港湾・海上構造物
羽田空港D滑走路の埋立部と、多摩川河口側で鋼管杭とジャケットに支えられた桟橋部の鳥瞰断面図

海を埋めるだけでは、空港を造れなかった理由とは

羽田空港のD滑走路は、海の上に造られています。けれど、海をすべて埋め立てた滑走路ではありません。

多摩川河口に近い側は、川の流れを通す必要がありました。そこで設計者は、埋立部と、杭の上に床を載せる桟橋部を一つの滑走路に組み合わせました。

飛行機が離着陸する平らな路面の下では、海、川、軟弱地盤、波、航空機荷重が同時に動いています。

なぜ多摩川河口で、埋立と桟橋を組み合わせたのか

海上空港では埋立が使われます。しかし多摩川河口側を完全に閉じると、河川流の透過や水域環境への影響が課題になります。

国土交通省の工法評価資料は、埋立・桟橋組合せ工法を、実績のある埋立工法に桟橋工法を組み合わせ、多摩川の河川流の透過を確保するものと説明しています。桟橋部は杭の間に水を通し、支持層へ荷重を伝えます。

ただし、埋立部と桟橋部は沈下やたわみの性質が違います。二つの構造をつなぐ部分こそ、設計と維持管理の核心になります。

杭、ジャケット、床版は、滑走路をどう支えるのか

D滑走路の桟橋部は、海中へ打設した鋼管杭、その上へ据え付けた鋼製ジャケット、さらに上のコンクリート床版と舗装で構成されます。国土交通省はこの構成を公開しています。

ジャケットは、複数の鋼管杭の上に載る鋼製の骨組みです。上部の荷重を杭へ分け、海上で安定した作業台をつくります。中央部の床版には、工場で造ったプレキャストPC床版を敷き、現場で連続・一体化しました。

  • 埋立部土で海域を埋め、地盤改良と沈下管理を行う部分。
  • 桟橋部杭の上に上部構造を載せ、水の流れを通す部分。
  • 鋼製ジャケット鋼管杭と床版の間で、荷重を分散する海上の骨組み。
  • 接続部異なる動きをする埋立部と桟橋部をつなぐ、変位を受ける構造。

D滑走路の現場では、どの規模の部材をどう据えたのか

198基の鋼製ジャケット

東京空港整備事務所は、桟橋部の全198基のジャケット製作が2009年に完了したと発表しました。海上で据える前に、工場で大きな鋼製構造を製作し、運搬と据付の精度をつなぐ工事です。

約10,700枚のプレキャストPC床版

同事務所の資料では、桟橋中央部の滑走路・誘導路を含む約31万m²に、約10,700枚のプレキャストPC床版を使ったとされています。標準寸法は約6.6m×約3.3m、最大重量は約25tです。現場では床版間を鉄筋、スタッドジベル、コンクリートで一体化しました。

2010年10月の供用開始

国土交通省は、D滑走路を羽田空港の4本目の滑走路として2010年10月21日に供用開始しました。設計・施工一括の性能規定型発注で、構造、施工、環境、維持管理を一体で提案させた事業です。

面白さは、一枚の滑走路に異なる地盤の時間をつなぐことにある

埋立地は長い時間をかけて沈下します。桟橋は支持層まで杭で荷重を伝え、航空機荷重でたわみます。平らで連続した滑走路を保つには、二つの動きを切り離せません。

国土交通省の比較資料は、埋立部で供用後100年間に約30cmの沈下を想定し、接続部に大きな変位へ対応する構造を検討したことを示しています。海上空港は完成時の形だけでなく、何十年も動き続ける前提で造られます。

発注前に、海上構造物の何を確認するか

確認項目確認する内容
海象・河川条件潮位、波浪、流況、船舶航行、濁り対策を施工計画と一体で確認する。
地盤と杭支持層の深さ、杭の施工精度、腐食対策、地震時の挙動を照査する。
埋立部の沈下地盤改良、沈下予測、計測、舗装や設備の調整計画を確認する。
接続部埋立部と桟橋部の相対変位を、航空機走行と維持補修まで含めて確認する。
大型部材の施工工場製作、海上運搬、曳航、据付、気象待機の工程と品質保証を確認する。

滑走路は舗装の平坦性だけでは評価できません。基礎、鋼構造、床版、航空保安施設までをまたぐ長期の性能で見ます。

許可業種から候補をどう探すか

海上空港は、複数の専門工事を全体としてまとめる土木工事です。総合施工、基礎・コンクリート、舗装の役割で候補を整理します。

許可情報に加え、海上施工、鋼管杭、ジャケット、プレキャスト床版、供用中空港近接の実績を確認してください。

参考にした技術資料

羽田D滑走路でよくある質問

羽田D滑走路は全部が埋立地ですか?

違います。多摩川河口側では川の流れを通すため、杭とジャケットで支える桟橋構造を採用し、埋立部と組み合わせています。

桟橋なら沈下をまったく考えなくてよいですか?

桟橋部は支持層まで杭で支持しますが、埋立部との接続、航空機荷重、波浪、地震、金属疲労などを含めた維持管理が必要です。

海上空港の施工は港湾工事だけで完結しますか?

港湾、地盤、鋼構造、コンクリート、舗装、電気、航空保安施設などが連動します。