建設技術図鑑

NATMとは?山の力を読み、トンネルを支える

掘った直後の岩盤を吹付けコンクリートとロックボルトで安定させるNATM。新鍬台トンネル、都市部の生麦トンネル、世界最大級断面の施工事例を解説します。

更新日
2026年7月11日
読了目安
11分
テーマ
山岳トンネル・吹付けコンクリート・計測
掘削面に吹付けコンクリートとロックボルトを施工し、山岳トンネルを安定させる断面図の仕様

山を掘った穴が、すぐには潰れない理由は何か

トンネルを掘ると、山は押し返してきます。掘った直後の空洞を放置すれば、岩や土の力が集中し、変形や崩落につながります。

NATMは、掘削のすぐ後に吹付けコンクリートとロックボルトで地山を支え、観察と計測を繰り返しながら前へ進む考え方です。

山を完全に固い箱で閉じ込めるのではなく、地山自身の強さも利用する。ここに山岳トンネルの面白さがあります。

なぜ先に厚いコンクリートのトンネルを造らないのか

山の中の地質は、設計図どおりに均一ではありません。硬い岩盤の次に割れ目の多い層が出ることも、湧水が急に増えることもあります。

掘削後の変形を見ながら支え方を調整できることが、NATMの強みです。掘削直後に薄くても早く支保を働かせ、必要に応じてボルト、鋼製支保工、吹付け厚を加えます。

完成時の覆工コンクリートは重要です。ただし、施工の安全を最初に受け持つのは、掘削直後の一次支保です。

NATMでは何を観察し、何で山を支えるのか

NATMは、新オーストリアトンネル工法の略称で、掘削後に吹付けコンクリート、ロックボルト、必要に応じた鋼製支保工で地山を早期に安定させ、計測結果に応じて施工を管理する工法です。定義はここだけです。

  • 吹付けコンクリート掘削面を早く覆い、表面の崩れを抑えます。
  • ロックボルト地山に棒鋼を定着し、緩みやすい部分を一体化します。
  • 鋼製支保工地圧が大きい区間で形状を保つ骨組みです。
  • 計測内空変位、地表面、支保工の挙動から次の施工を判断します。

設計時の地質予測と、切羽で見える実際の地質を照合する作業が欠かせません。計測は記録でなく、安全側へ切り替えるための判断材料です。

新鍬台トンネルと都市部トンネルで、何を工夫したのか

国道45号 新鍬台トンネル

前田建設工業は、三陸沿岸道路の新鍬台トンネルでNATM発破工法を用いた施工を公表しています。延長3,330mのトンネルで、同社は掘削断面110m²超の大断面山岳トンネルとして月進232.5mを記録したと発表しました。

穿孔、発破、換気、ずり出し、吹付け、ロックボルトは連続した工程です。一つだけ速くしても進みません。資料はジャンボ、換気、電子雷管、複数の吹付機を組み合わせた取組を示します。

生麦行きトンネル部

首都高速道路は、学校や住宅に近接する生麦行きトンネル部で都市部山岳工法を採用しました。校舎にはアンダーピニングを施し、地盤変状を抑えながら施工した事例です。

道路トンネルとして世界最大級の大断面

鹿島建設は2023年、NATMによる道路トンネルで断面積485m²の掘削完了を発表しました。大断面では、掘る面積が増えるだけでなく、支保工と掘削手順の組み立てが難しくなります。

面白さは、山を敵にせず構造の一部にすること

NATMは、山を全部取り除いて人工の壁だけで支える発想ではありません。掘削で緩む範囲を抑え、残る地山の力を使います。

だからこそ、地質を読み違えたまま同じ手順を続けることはできません。切羽の観察、湧水、変位の変化を現場で受け取り、支保を変更する余地を残します。

地質が変われば、同じ坑口から入るトンネルでも施工の表情が変わります。硬い岩盤では速さを出せても、割れ目や湧水があれば安全側の手順へ戻ります。

掘削で出るずりも地質情報です。搬出量や岩の状態を記録すると、前方の条件を予測する助けになります。

トンネルは完成した覆工だけでなく、掘ったその日に何を見て、どこを支えたかの積み重ねです。

発注前に、山岳トンネルの管理資料をどう読むか

地質縦断図は、完成後には見えなくなる地山を読むための地図です。設計時の予測だけでなく、切羽観察の結果を誰が記録し、支保パターンの変更を誰が決めるのかを確認します。

湧水が増えた場合は、排水能力だけを足せばよいとは限りません。切羽の安定、周辺の地下水、作業員の安全をまとめて判断する必要があります。

供用後の漏水や変状を減らすには、覆工前の一次支保の記録が役に立ちます。写真、計測値、施工日報を完成図書として残す計画を確認してください。

確認項目確認する理由聞く内容
地質調査支保パターンと掘削方法の前提です。想定外の地質が出た時の変更手順。
湧水対策切羽の安定と作業環境に関わります。排水、注入、止水の判断基準。
支保パターン地山条件で支え方を変える必要があります。吹付け厚、ボルト、鋼製支保工の使い分け。
計測計画変位を早く把握するためです。計測位置、頻度、警戒値、中止基準。
換気と避難発破・粉じん・車両作業の安全に関わります。換気量、退避、火災時の対応。

許可業種から候補をどう探すか

山岳トンネルは、全体を統括する土木一式工事を中心に、掘削・吹付け・地盤に関係する専門工事を確認します。

工法名より、同じ地質・同じ断面・同じ近接条件の実績を確認する方が実務的です。

参考にした技術資料

よくある質問

NATMはどんな地盤でも使えますか?

地質、湧水、土被り、周辺条件に応じて支保パターンを変えます。

発破は必ず使いますか?

岩盤条件では発破が使われますが、都市部などでは機械掘削を選ぶ場合もあります。

トンネル工事で最初に確認する資料は?

地質縦断、支保パターン、計測計画、湧水対策、非常時対応を確認します。